(2009年10月2日 <のんびり小町パック 新幹線グリーン車込>2人泊 @31,600円)
温泉に行くとき、傘をさして家を出るのはほんとうに珍しい。
秋の長雨が始まったのだろうか。どこまでも続く黄色い絨毯のような稲穂が、雨にけむっていた。
「山形に連れて行ってもらうの、初めてよね?」
「いーえ。銀山温泉の銀山荘に行っています」
「あ~ …… そうだっけぇ…… どこもみんなよくてね、そしてはじから忘れるわね」
「いいじゃない? 新しく行ったところが一番いいのよ」
「そうよね~」
(そうかしらね~?)
「お食事が良くて、静かで、母が気に入るといいな~」と、のんびり小町のパックで選んだ宿。
さくらんぼ東根の駅の小さな改札口に、宿からの迎えの女性が待っていてくれた。
車で10分もかからず。街中で国道沿い。温泉街には温泉饅頭ののぼりもなし。
とてもきれいな宿だった。フロント。
ロビー。奥には「魔笛」という喫茶室。
仲居さんに2階の部屋に案内される。
上り口に真新しい生け花が。
10畳、板の間、2畳の鏡の間が付いたお部屋。
大きめの肉厚バスタオル2枚。右手にはバスルームあり。
床の間の生け花もみずみずしく、
母、とても喜ぶ。
昔母と行った湯河原の宿で、半分枯れてドライフラワー状態の花が置かれていて母がとても気持ち悪がり、仕方ないのでそれにタオルをかけて過ごしたことがあったっけ。
眺望が望める宿ではない。窓の外は庭と建物、窓を開けると国道から車の音が聞こえるが
母は「窓を閉めておけば全然音はしないわ。とっても落ち着くわ」と言っている。
仲居さんは「朝はいいお天気だったのですが… 生憎の雨ですね」
と慰めの言葉を。
しかし私たちはカンカン照りより雨のほうが好きである。日焼けもしないし。
木の温もりある脱衣所。
先客が2人入っていたが私たちと入れ違いに出ていったので、貸し切り状態。
風呂の縁と周りも木造りで、ほんのり木の香漂う。
お湯はタイルが薄いクリーム色なので色が強調されているが、
深いところでは濃くなっているので、うっすら色があるらしい。熱めの源泉。
底の真ん中辺から噴き上がる。そして縁から溢れる。
ガラス戸の向こう、庭の中、小さな露天がある。
露天はぬるめで、母もいつもより長湯できた。
雨が静かにまっすぐに落ちてくる。
すぐ向こうの道路の車の音も聞こえるが、暑からず寒からず、しっとりとして落ち着けた。
お湯は塩化物泉なので温まり、汗がどんどんと出てくる。
「いいわねえ。とってものんびりできる」と母。これぞのんびり小町?
フロント前に小さな土産物コーナーあり。
食事は1階の個室の食事処で。
あちこちにとてもいい細工の建具がある。
個室の戸には、それぞれ違う絵柄の彫り物の細工が施されていた。
掘りごたつタイプなので、足がラク!
女将さんが挨拶にみえた。迎えに来てくれた女性だった。
いまどき作れないようないい彫り物は、11年前に改築したときに以前の宿にあったものを
そのまま新しい戸にはめ込んだのだそうである。
開湯100年を迎えるという。
「もってのほか」という黄色と紫の菊の花をサバで巻いた酢の物。
鮑、ムカゴ、海老。
お燗で日本酒1合いただく。
山形、海が遠いのでお刺身は… と思うが、おいしい!
鰆。焼きたてを運んでくれた。
山形牛しゃぶしゃぶ。山形牛、ステーキにするとあっさりしすぎるが、しゃぶしゃぶだとそのあっさり感がとてもいい。
牛のだしをまとった野菜も新鮮で甘みがあった。
芋煮。
里芋、ひらたけ、しめじ、コンニャク、ゴボウ、牛肉、それらが丁寧にアクをとって柔らかく煮込まれ、
葱の香りもよく、お汁までおいしくいただけた。
味を濃すぎずに仕立ててある郷土料理もほどよく採り入れて、山形の特色を出しているのが好もしい。
揚げたてを運んでくれた。
ベビーコーン、シシトウ、ホタテ貝柱をしんじょうとコーンでくるんで揚げたものはとてもボリュームがある。
芋、コンニャク系統がわりとあり、おなかいっぱい。う~ん、しかしやはりご飯を食べなければ…
な、なんと鮭ご飯、イクラのせ、松茸のお椀…
母と2人で顔を見合わせ、がんばろうね~!!
あーーー おなかパンパン!
デザートはお部屋にテイクアウト。
巨峰ののった豆乳プリン。
甘酸っぱい巨峰がおいしく、おなかいっぱいでもツルンと食べてしまいました。
母の分は冷蔵庫に。
小さな貸し切り風呂は無料で予約できる。
「貸し切り風呂なら行くわ。食べたもの少し消化させないと」
と、うっかりするとおなかいっぱいのまま8時に寝てしまいそうな母。
昨夜の天気予報では午前中は雨とのことだったが、起きてみると雨は上がっていた。
寝具はとてもよく、敷布団は1枚だったが、畳がほとんど気にならないくらいで、セーフ!
枕も掛け布団もたいへんグッド!
母も「寝心地良かったわね」と。
素泊まり湯治宿ならいざしらず、
それなりの旅館で8時間を過ごすのであるから寝具の寝心地は重要である。
朝食は8時に食事処に。
昨夜あんなにたくさん食べたのに「おなかすいたね」と、私より健啖な母。
コーヒーを飲んでボーッとしたい私は空腹感がなし…
でもこんなおかずを目にすると…
そしてご飯がとってもおいしければ…
やっぱり入ってしまいます…
よく「お母さんをそんなに温泉に連れて行ってるなんて、親孝行ですね」と言われる。
いーえ、いーえ、私は親孝行ではありませぬ。
もし高齢の母が病んで病院に入っていたら…
同居していないとはいえ、仕事帰りにタクシーで病院に行かねばならず
そして多大な心労やら、病院にまつわる出費やらを考えたら、
おいしいものを食べてニコニコし、いいお湯につかって喜び、しっかり歩き、元気な母であることが、どれほど子供孝行であることか。
丈夫な母を持って幸せ!
そして私も両親に丈夫に生んでもらって幸せ!
母と温泉に来られて幸せ!
いつか終わりがくることが分かっているから、こんな今が幸せ!
母もきっとそう思っているんじゃないかな?
キラキラした日差しが出てきた。
土産物コーナーに、山形の日本酒をしぼる布で作ったバッグが置かれていて、
昔その布で作った小銭入れを友人に貰ったことがあり、私には合うものではないけれど
とても味のある布だったので、ああここにもあるんだ、と見ていたのだが、
母に似合いそうなので昨夜「この小さなバッグ買いなさい」と言ったらその気になったようだった。
帰りに際「あのバッグを買おうと思って、昨日嬉しくて寝られなかったの」というから
買ってあげた。
子供みたいにはしゃいで寝られなかったというのでおかしかった。
そのわりには、けっこう早く寝付いていたみたいですけどね~
喫茶室「魔笛」でサービスのコーヒーをいただいて、駅まで車で送ってもらう。
駅周辺は何もなく、駅構内には図書館がある。小さな売店でリンゴ7個1袋315円也を購入。
「よかったわ~ とってもよかった。お食事もおいしかった。女将さんもちゃんと見送ってくれたし、生け花も新しかったし」
バッグには小物を入れてすぐ使用してました。
宿泊費15,000円の料金以上のお値打ち感、
お食事も、女将さんも、部屋も、風呂も、宿も、そしてバッグもよく、母は満足の笑顔であった。
<温泉宿>としては二重丸ね~。
私はですね…
帰りの新幹線に揺られながら、次に行く自分が満足する<温泉>二重丸の宿を…
頭の中で探しだしたのであった。
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