(2011年3月6・7日 2人泊 冬季・のんびりゆったりプラン @5,550円 )
鹿追町の<大雪>でかしわ蕎麦を食べ、道の駅で買い物をし、<パティスリー・ロク>でケーキを食べた私たちは、
三部さんに新得駅まで送っていただいた。
駅前にはすでに東大雪荘の送迎車が。
2時少し前。
おばあちゃん3人とおじいちゃん1人が乗っていて、
私たちが乗り込むとすぐに出発!
長いダムに沿って、遠くにまだ雪景色の山々を見やりながら、雪の溶けた道路を軽快に進む。
真赤な橋梁の橋を渡る。
ほとんど車も通らない道路の途中、光ケーブルの工事が行われていた。
この先、民家もないような場所に思えるけど。
そしてそのもっと先は東大雪荘しかないような気もするけど。
次第に道路には雪が積もり、細い小川に沿っていろいろな形の小さな足跡が連なっているのが見える。
どんな動物が通っていったのか、機会があったらガイドさんに教えてもらいたいといつも思う。
足跡からその動物が何か分かったら、その足跡を辿るだけでもワクワクするだろう。
1時間強で、到着。
頭を揺らしながら眠っていた新妻ちゃんを起こす。 「着いたよ~!」
雪がハラハラと舞って、周りはすっかり冬に逆戻りの白い風景。
同乗のおばあちゃんたちは勝手知ったる旅館らしく、備え付けの下駄箱からさっさとスリッパを引っ張り出してご入館。
何年か前にリニューアルしたみたいで大きくてまだ新しい建物。
あんまり国民宿舎感はなく、お宿の人もフレンドリー。
フロントで鍵を貰い、その場で本日の夕食を選ぶ。
和食、ステーキご膳、割増料金で鳥鍋みたいなもの、とか色々ある。
連泊だから本日は和食で明日はステーキね。
だって2食付き5,500円というおっそろしく安い料金だから期待せず。
ふつーに食べららればOKです。
小奇麗なお部屋は10畳ほど。
椅子・テーブル部もゆったり。
3階のお部屋。
窓も大きくていい感じであった。
窓の真下は男湯の露天。
下を見ていたら、露天に入っているおじさんの裸が見えたので窓を閉める。
わ~い! 雪、どんどん降ってきました。
なんとテレビはデジタルで、道内の番組は映らないんだって!
そうか… 来るときに見かけた光ケーブルの敷設はこのためにあったのか~
まあここのためだけではないでしょうけど。
東京と同じ番組見る羽目に。北海道の天気予報、見られなかった。
テレビの下にはカラの冷蔵庫。
新妻、買ってきた<パティスリー・ロク>のケーキをいそいそと入れる。
洗面台もトイレも最新で快適。
1階にある風呂に。
廊下に写真がたくさん飾られている。
かわいい~! 宿の玄関付近に現れるというクロテンの写真が。
へえ~ こんなに傍まで来るの? こんな写真、撮れるといいねぇ。
脱衣所も広々している。
日帰りのためのバスツアーのプランなどもあり、そのほか車でけっこう人が来ている。
どーんと広い内湯。
お湯は一部循環・塩素入り。
公共の宿はお湯が豊富でもこうなってしまうみたいね、リスクを避けるために。
けれど塩素のにおいはせず、循環の吸い込みも弱く、必要最低限にしているのが分かる。
アルカリのぬめりを感じる、適温でよく温まる気持ちいいお湯だった。
日帰りの人も帰り仕度で上がり始めてだれもいなくなり、
高く抜けた天井と全面のガラス窓、換気扇の音も気にならない。
ゴージャスな造りである。
露天は男湯のように大きくはないが左右に2カ所あって、
左のほうは上から滝のようにお湯を落としてぬるめにしてある。
右のほうはやや熱め。
お湯は透明で、縁から川に向かってかけ流されている。
夕暮れ時、川音を聞きながら、たそがれていく山の木々と降る雪の中、
心地よい時が流れていった。
本日の和食膳。食堂で。
なんとなくふつー。
おなかすいたのでおいしくいただききました。
揚げたての天ぷらを持ってきてくれた。
抹茶塩で。
薄味のお吸い物にはお蕎麦が。新得もお蕎麦が有名なのだ。
お米もおいしい。
デザートなんか付かないかと思っていたら、ちゃんとコーヒーゼリーを持ってきてくれた。
一晩中入れるのって嬉しい。
もちろん夜中に必ず入るわけではないんだけど、いつでも入れるんだ!っていう…
なんというかね~ 安心感みたいなものがある。
夜の冷たい空気の中、 ああ~ 私、ここで温泉に浸かってる~ いつでも入れる~ みたいなねっ
玄関の餌箱の前、ガラス戸越しにクロテンを見たり写真を撮ろうと待っている人たちの前を、
大仰なカメラを抱えたおじさんがうろうろしていて、時々フラッシュなぞをたき、
他の宿泊客は「あの人がうろついているからクロテンが逃げちゃうんだ!」って去っていく。
しばし夜も更けて、クロテンがやっと玄関前に。
明かりが煌々としていても慣れたもので、置いてあるキャットフードみたいなものをせっせと食べる。
が、また大仰カメラおじさんがうろつきだして去ってしまった。
これが野生動物の<餌付け>にあたるかどうかは、ちょっと微妙なところで、
宿では
「放っておくとクロテンはわずかな隙間から物置や建物に入りこんで荒らすので、それを防ぐためにこのように… お客様も喜んでくれますし… 」
まあ、みんな楽しみにしているんだから、この程度ならいいんでないの?
朝食はバイキング。
ふつーに色々ある。
私ら2人とも朝はいつも食べないので、ちょこっとね。
和食、洋食用に、それなりに揃ってます。
この大きさと高い天井が気持ちいいね~
かなりしっかりとした温泉なのだ。
自然湧出を近くから引いているので新鮮だし。
なにより、お湯の肌あたりが柔らかで優しい。
「橇、できますよ」ってんで新妻
「橇、乗りましょうよ~~~!」
しかし、私は
(えー… 初めての乗り物… 運動量が多そう…)
ま、やるか。
橇に<薔薇のつぼみ>は描かれていないわよ。無地。
誰か描いときゃいいのにね~ 分かる人には分かるわよ~
雪の上の足跡を横目に、宿の前の緩やかな坂を上っていき…
源泉が噴き出している脇を通って橋を渡り…
その上の坂をテクテクと上り…
始めはどうやって橇を操るのか見当がつかず、どうやって方向を定めるか分からず、
体重移動して方向を変える? あらダメだ!
ひたすらザーッと下って足を踏ん張ってザザッと止まり、
ザーッ ザザッ ザーッ ザザッ
3~4回繰り返して、あ、片足でちょっと蹴って方向を変えるんだ!
分かると何てことはなく、坂の真ん中をまっすぐに滑り降りて、ゆるくカーブを描いて玄関にピタッと付けることができるようになった。私は。
しかし新妻はコツを会得せず、ザーッ きゃ~~~ ザザッ ザーッ きゃ~~~ ガサガサッ
わたしゃ運動は嫌いなので、必要最低限の運動量で済ませようとするからはやいとこ会得するみたいですけどね、彼女は運動そのものが好きなんですね、上達より運動量を選ぶみたいよ。
なかなか楽しい遊びであった。
人もあまりおらず、すべてがどかーんと広くて大きいので、独特の開放感に包まれて過ごせる。
青空を見上げると、春の気配が漂っていた。
本日、ステーキ膳。
あら、お刺身などが付いております。
これは別注のモッツァレラチーズのサラダ。
とてもナチュラルな味の、いくらでも食べてしまいそうなおいしさのチーズだった。
宿に置いてあるパンフレットで、新得の<共働学舎>というところで作られていることがわかった。
そうこうしているうちに出来立ての十勝牛ステーキが!
うわ~巨大! 山葵が添えてあり、運んでくれた宿の人が
「途中でちょっと味を変えて食べてみてください」
やや甘めのソースがかかっていたから、これは嬉しい配慮だった。
そしてお肉は柔らかく、すごくおいしい牛肉だった。
ステーキと一緒に出たサラダ。
キャベツばっか、と思うでしょ~! ところがこのキャベツがさ!うまいのよ~
本日は頑張っていただきました! おいしかった。
こんなステーキとは思ってもみなかった、お得感倍増。
本日のデザートはプリン。
食事の最中から、窓の外ではフラッシュの不愉快な閃光が何度も目撃された。
昨日の大仰カメラおじさんが駐車場の車の前に立っている。
と、そのおじさんの足元に不審な動きをするクロテンが…
そしておじさんの車の上にも不可解な動きのクロテンが… なにか撒いてる?
ばかばかしくなった私は部屋に戻ったが、そのまま玄関前に残った新妻ちゃんの話によると
食後にクロテンを見ようと玄関に集まった人たちに、大仰カメラおじさんが
「今日豚肉380g買ってきてあちこちに撒いたんだ。こんな写真が撮れたよ」と、見せて回ったらしい。
そこには、枝に刺さった肉団子を不自然な姿勢で食べているクロテンが写っていたとのこと。
デジタルは写真の修正なんて簡単よ。肉団子もあっという間に雪化粧。
みんな「キャットフードと豚肉じゃあ、豚肉に負ける」と言っていたそうな。
クロテン、野性を忘れたか~って思ったけど、しばらくあとに私が行ってみたとき、
表でカメラを向けた人に向かって激しく威嚇した瞬間を目撃し、その獰猛な顔を見て安心したのであった。
豚肉団子おやじ騒ぎで、危うく忘れてしまうところだった。
こんな澄んだ北海道の夜空を、絶対に見逃してはいけない。
10時半を回ったころ私は1人で外に出て、風のない静かな坂を上っていった。
2本目の坂の上まで来て夜空を見上げる。
輝く満天の星空。
降る星の如く… を見上げていると、下からフラッシュの閃光が何回も闇に走る。
ったく! 肉団子おやじめ!
「スレドニ・ヴァシュタールよ! 豚肉団子食べてからでいいから、そこのおじさんのお尻に噛みついちゃいなさい!」
と私は、サキの短篇に倣って黒い祈りをささげた。
サキの短篇に『スレドニ・ヴァシュタール』ってのがあるのよ。
……両親を亡くして邸宅で叔母に育てられてる少年が(もちろんシチュエーションからして優しい天使のような叔母であるわけない)、ある日物置かなんかでイタチかテンを見かけるの、多分イタチだっかな。
彼はその小動物に<スレドニ・ヴァシュタール>と名前を付けて神として崇めたてまつり、貢物をして夜な夜な祈る。
天使のような叔母じゃないもん、祈りはたったひとつ。
長いこと祈り続けたある日、彼は口の周りを赤く染めた小動物が去っていくのを目撃する。
召使が遠くで「あのかわいそうな子に、何て言ったらいいか分からないわ~」って叫んでる声を聞きながら、
暖炉の前に用意された午後のお茶のセットのパンを、トースト用のフォークに刺して暖炉の火で炙って食べる少年の姿のシーンでその短篇は終わる。
そのトーストが、なんともうまそ~でね~
その短篇を読んで暫くたってから、とあるアンティークショップで10本ほど束にしたイギリス製<トースト用フォーク>を初めて見た。
長さは50~60㎝ほどの黒い鉄製の代物で、握り部分が付いていて先が2股、もしくは3股に割れており、<フォーク>という語感から受けるお茶の時間の温かな印象や上品なカトラリーのイメージとはほどとおい、場合によっては凶器になりかねないような重い雰囲気を醸す、どこか禍々しささえ漂う鉄の棒の束だった。
その<トースト用フォーク>にパンを突き刺して炙って食べている少年の姿を短篇の最後に描くのは、如何にもサキらしい、と、納得したのだった。
だからさ~
「スレドニ・ヴァシュタール! お尻に噛みついちゃえー!」
おじさんは「趣味で写真撮ってる」と言っていたらしいけど、チラッと見た機材の山は、趣味の範疇超えてるもんね。
わたしは北海道の土産物屋で何か買ってあげたいのだが買うものが見当たらないとき、
動物の写っている絵葉書を3~4枚買ったりしたのだが、もうそれらを買うこともないだろう。
そんな思いを除けば、久しぶりに見る静けさと輝きの見事な星空だった。
11時半くらいに新妻ちゃんが「星を見たい」と言ったので表に出て、
「橇もしたい」というので橇もやり、わたしは2本の坂を2回で滑り宿の玄関前で佇んで
きゃ~~~ ザザッ きゃ~~~ ザザッガサッ きゃ~~~ ザザッ
と可愛い悲鳴で、結果としてクロテンを完全に追い払いながら時間をかけて滑り降りてくる新妻を待った。
可愛い新妻がクロテン追い払ってるんだもん、おじさんも文句言えまい。機材を片付け始めた。
大変残念なことに、おじさんのお尻は無事だった。
にわかスレドニ・ヴァシュタール信者の祈りは通じなかったようだ。イタチじゃないとだめだったのかもね。
湯気が凍って、不思議な形の結晶になっている。
朝日の只中のお風呂は素敵だ。
爽やかで冷たく、穏やかに明るく、そして温かく、手足が伸び体がほどけて、
こんな1日の始まりを、なんて感謝すればいいのだろう。
今朝は、お粥をいただいてみました。
豆がおいしい。タラコもおいしい。牛乳もある。おなかいっぱい。
いや~ お安くって、お湯もお部屋も良かった~
湯治パックはもっと安くて3食付き。お昼はカレーライスとか付くらしい。
「良かったよね~ また来ようね~」「良かったですよね~ また来たいですぅ」
「今度は共働学舎へ寄っておいしいチーズ買おうね~」「それまで待てないからネットで頼みますぅ」
帰りは時間がないので六花亭には寄れない。
新得駅の立ち食いそばを食べて締めくくり。
蕎麦、うまし。
いい旅でした!
トップに戻る
powered by Quick Homepage Maker 4.15
based on PukiWiki 1.4.7 License is GPL. QHM