ラブホの四季・木枯らしが吹いたり篇
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- 木枯らしが吹いたり篇
ブクロの師走
もう、戦闘よ、この人込み抜けてデパ地下に大根買いにいくのは…
大根、プラス鶏肉、プラス食パン買おうと思ったら、ノルマンディー上陸作戦に参戦するような気持ちで突進していくのよ。
買い物終わったら… 果てるわね…
しかし押し迫った12月31日の午後7時のブクロは、多分1年のうちで一番人通りが少ないような気がする。
あと4~5時間もすれば、またすぐウジャウジャ人が出てくるんだろうけどさ~。
ラブホな湯気
あ!! 隣のラブホの風呂場の煙突から、湯気が出てる!
私はこれを見ていると、自分の部屋にいることを忘れて、なんだかどこかの温泉にいるような気分になるの~
そのことを知人に話したら
「そんなのおかしい! だって全然違うでしょうが。温泉に行きすぎだからそんなこと考えるのよ」と笑われた。
まあね、そうかもね。はっはっは~だわね。
そうかな…
だってね…
さまざまな、そしてそれぞれの人生。
ブクロの、ラブホの狭い風呂場で、
彼らが湯気の立つお湯に浸かったその一瞬は、人類共通の幸せなため息がもれるはずよ。
その前後は多少欺瞞があるかもしれないけれどね。
やや変形、誇張はあれど、まあ人間の営みの1種なんだしさ。
幸せなことに、それは爆弾の煙でもなく、戦禍の煙でもなく、風呂に入るために上がる湯気なのよ。
だからラブホでも、温泉でも同じなのよ。
な~んちゃってね~
というわけで近ぢか天然の湯気見てくるからね~!
観察
彼女は観察好きである。
落ちる心配がないように、私は、窓は猫の顔の幅以上はけして開けないのである。
その細く開いた窓から外に首を出して、熱心に外界を観察するのである。
いつか微動だにせず5分ほど下を見つめていたから、いったい何を見ているのだろうと思って窓辺に近づいて見てみたら…
隣のラブホの部屋の、
開け放された窓から丸見えの、
ベッドの上で1人で万歳して寝ている全裸のおねーさんを、
じーーっと熱心に観察していたことが判明した。
ブクロなマスク
インフルエンザ蔓延してるっていうけど、
ブクロ歩いてる人あんまりマスクしてないのよね~
ラブホ街は皆無よ、いまのところ。
思ったんだけどね……
たぶんラブホな人たちがチラホラマスクしだしたら、
それはかなりヤバイってことかな?
そして全員がマスクしだしたら…… パンデミックってことでしょうね~
あ、目安になるじゃん!
ラブホな別れ
このあいだ木枯らしが吹いた。
ラブホ街にだって木枯らしは吹くのだよ~ん。
例によって信号のところで、お別れをしてる2人連れがいた。
「ねえ、覚えていてくれるよね?」若い男は未練たっぷりのようである。
強い風にあおられて長い髪が顔の周りに巻き上がった細身の小柄な女の子は、どこか遠い目をして、そして
「どうもありがとうございました」と言いながら、男に向かって深々とお辞儀をしたのである。
それは最近見かけないあまりにも丁寧なお辞儀だったので、私はちょっと目を見張った。
男は「忘れないでね~! ね?ね?」
彼女は男の顔を見て、再度無言で…… また深々とお辞儀をした。
横を通りながらね、これはいったいなんなのでしょう? ってね。