(2010年6月12日 1人泊 @11,000円)
うーん…
お尻とお股と太ももの筋肉痛は…
やっぱり温泉よね…
というわけで、以前から行きたかった下部温泉・源泉館に電話。
女将さんとおぼしき女性が
「12日は土曜日なので… 申し訳ありませんね、もう満室で…」
ここで諦めるのはまだ早い。
「湯治用の大部屋でもいいんですけど」
「あ?! 湯治のお部屋でいいんですか? それでしたら湯治の個室もまだ空いていますよ」
トイレ付きの6畳、なんなく予約。
ぬるいお湯にそうとうな時間入るつもりだもの、部屋にいるより風呂に入ってる時間のほうが長いわけで、眺望がないお部屋で十分。
食事もおなかが満ちれば十分。
だいたい下部って部屋からの風景を楽しむような温泉街じゃないだろうし。
ついでに、安い高速バス使ってみようかな~
などと思ったのがちょっとなんだったね…
新宿でバスに乗るときに
「相模湖で込んでるので、遅れますよ」
相模湖? 何かあるのかしら。
まあ、急ぐ旅でなし、しかし遅れるってどのくらいかしらね。
身延線の特急はあんまり本数がないので、いっそ遅れるなら2時間ぐらい遅れてほしいものだ。
バスは相模湖どころか、府中でノロノロ運転となり、日野まで行くのに歩いたほうがいいくらいの塩梅。
高速に乗り慣れていない私は、こんなもんかと諦めて読書にいそしんだ。
カンカン照りの日差しで眠くなる。
やっと相模湖を通過すると俄然渋滞緩和、スピードを上げて走り出した。
約1時間遅れで到着した甲府は、くそ暑かった。
とにかく身延線の接続を見なければ。
やたら人がいる。黄色いTシャツを着た人の集団がバス乗り場で行列。
その黄色がまた目からも暑さをそそる。
前を歩く人が
「今日はもう30℃超えたってさ」 いやはや…
次の特急は1時間以上間があいているので、駅前のタリーズに入ってコーヒーを。
宿に電話して遅れる旨伝えると「電車の時間に合わせてお迎えに」と。まあ、これでひと安心。
ちょっとおなかがすいてきたので、駅に行って立ち食い蕎麦屋に入る。
駅ビルお勤めの遅番出勤らしきギャルが蕎麦屋を切り盛りしてるおばあちゃんに
「おばさん、いつもの… 山かけの… 今日はうどんにして」
「いつものね。はいよ」
おばあちゃんはテイクアウト用の発泡スチロールの容器を取り出す。
ギャルが
「おばさん、今日すごい人だよ。なんかあるのかな?」
「あ?あれサッカーだよ。黄色いの着てるのは千葉のサポーター。これから試合があるんだよ。込んでるだろ?」
何とか山梨、もしくは甲府と、何とか千葉のサッカーの試合があって、黄色い人たちが大量に甲府駅に溢れたらしいが、やがてみんな時間に合わせてバスや車に吸い込まれていった。
身延線の自由席はガラガラだった。
私は、初めて乗る電車である。だから風景を楽しみたかった。
とうもろこし畑が連なる。風にそよぐ。
緑が濃くなっていく風景の中を、身延線はトコトコのどかに走るが…
駅ごとに、駅名の日本語のアナウンスのあとに英語のアナウンスが必ずあって、
女の子がしゃべってるんだけどさ、
そのあまりの下手な英語と、気絶するくらいおかしなアクセントで言われる駅名に…
身もだえしながら乗っていたの。
「ネクストステーションイズ カジィ・カズァワ・グッチ~」
ぞわ~~~~っ
あー ここは円朝の「鰍沢」だよ!
「お材木で助かった~」ってやつよ。なんてったっけね、あの花魁、えーっと…
そう <月の兎お熊>さん!
お熊さんもびっくり! カジィ・カズァワ・グッチ!
電車降りたときには、正直ほっとしました。
車で駅に迎えに来てくれたのは女将さん。
気さくな明るい方で、バスが1時間も遅れて疲れてしまったのでは?と気遣ってくださった。
順当に着いたなら、私は駅から歩いて宿まで行くつもりでいたので、迎えはなくていいと言ったのだ。
5~6分で宿に到着。
この奥ね。あの鳥居の左の坂の途中に本館があり、私が泊まる湯治用の別館は右の建物。
湯治用別館に、目当ての足元湧出の大きな岩風呂があるの。
ここはかつての<大市館>。経営が代わってしまいましたね。
さて車から降りて、こっちに案内される。
真ん中の建物が本館。
別館の岩風呂は夜10時までだけど、本館のお風呂は24時間いつでもどうぞ、と言われた。
浴衣着たおじさん何人かとすれ違う。みなさん、しっかり湯治スタイル。
別館切り盛りしてるらしい女性に3階のトイレ付きのお部屋に案内される。
建物は古いが、お部屋はこざっぱり。テレビもあり、クーラーも付いている。
お茶セットのほかに、ペットボトルに入った温泉水らしきものが置いてあった。
湯治ご飯スタイル、お醤油・爪楊枝・七味唐辛子セットもすでに置いてある。
シャワートイレはたぶん後で取り付けられたらしい。
トイレ、外にたくさんあるし、トイレなしの部屋でもよかったんだけど、トイレ付きの部屋もあります、って言われると、なんとなくね。
窓の外は、隣の湯治棟の建物で、ぜんぜん眺めは良くないが、建物の上のほうは山の緑が見える。
窓を開けると、やっぱり風が爽やか。
まず1階にある混浴の大岩風呂にどっぷりと1時間半浸かる。
おじさんたちが大勢いて、写真取れず。
川古温泉でゲットした湯浴み着で難なく入る。
すごく満足ののち、機嫌良く本館のお風呂に。
本館のもっと先には、源泉館・第2号館というのもある。
本館入り口。
お土産物、ほうとう、とか、饅頭なんかが、
ちらほら。
フロント、玄関外方向。
本館も湯治宿の面影があり、気取っておらず、
掃除も行き届いていて
身の丈にあった経営をしていることが伺える。
男女別のお風呂が1カ所ずつ。脱衣所も、簡素。
ドアを開けると、豊富に溢れるお湯が輝いていた。
おまけに本館は満室らしいが、だれもいない。
別館の岩風呂とは違う源泉らしいが、ぬるめの、とても気持ちいいお湯で、
1人で堪能させていただいた。
じつは筋肉痛は、もはや治っていたのであった。だからひたすら温泉を楽しめばいいわけ。
2本の湯口のほかに、下からも吹きあげている。さかまくお湯!
湯量もたっぷりで、贅沢!
湯上がり、汗を拭き拭きお散歩。
人通りはないが、寂れた感じもなく、それなりにそれなりって雰囲気の温泉街。
別館脇の鳥居を上ってみると…
その上のほうに神社があるらしい。
もう灯篭に明かりがともり、目で辿るとはるかかなたの高さまで連なり、
こりゃ夕食前にはだめだわ、と引き返す。
5時半にお部屋に持ってきてくれる。
本日は1階玄関にある自販機の230円の缶ビールです。
いいお湯でまったりしたので、ビールうま~
湯治食ですからね、おかずの量も少なめ。このくらいでちょうどいい。
まあ、ふつーの味で、それもちょうどいい。
あら、お刺身は鯛ですよ! おなかすいていたので、ご飯も2膳いただいて、満足。
混浴の大岩風呂、無色透明のお湯と、広大な板張りですごくいい。
でもいつも人がいて、写真撮れませ~ん!
本館のフロントにいた女将さんに、10時になって人がいなくなったらお風呂の写真を撮りたいんですが、とお願いすると
「いいですよ。10時にお湯を抜いてお掃除をするので、その前にどうぞ」とニコニコしながら言ってくださった。
「え? あの広いお風呂、毎日お湯を抜いてお掃除されるんですか?」
「それがうちの自慢なんですが、10時にお湯を全部落として、でも下から湧出しているのでカラにはならないんですけどね、板張りをブラシでお掃除して、その後お湯が満ちて入れるようになるのが朝の6時ころなんです。それでその間は入れないんです」
「そういうお話を伺うと、すごく安心して気持ちよく入れます」
10時ちょっと過ぎに行くと、ご主人がお湯を抜かずに待っていてくださった。
男女別の入り口、脱衣所がある。
入って通路の右に洗い場と、源泉を沸かして適温にし、かけ流している小ぶりのお風呂がある。
入り方としては、30℃の岩風呂にしばらく入り、この小風呂で体を温めてまた冷たいお湯に、と、
交互に入るのが普通らしいが、私は30℃のお風呂に1時間半入って、出るときこのお風呂で仕上げをした。
階段を下りて左手下に大岩風呂がある。
上部の暗い部分は、岩が剥き出しになっていてけっこう深い。
そこに入ると、とても静かにお湯が下から湧きあがっているのが体感できる。
昼間はかなりの人が、やはり真ん中辺は居心地悪いので、みんな壁に沿って長く体を伸ばして浸かっていた。
グループで来た人や、湯治の人の賑やかな話し声が響き、
増富温泉でもそうだったけど、
この風呂場も、聞き取りにくいために話す当人たちの声がどんどん大きくなっていくのは致し方ないことで、わんわんと響く何組もの話し声に頭がぼーっとしてきて、おまけに「ムーンリバー」なんかを口笛で吹いてるおじさんもいたりするので、私はちょっとつらかったが、
夕食後の風呂はいたって静かで、みなそれぞれのリズムで出たり入ったりするお湯の動きだけが顕著に感じられる素敵な風呂場となっていた。
旅館二階堂のお湯も30℃くらいであったが、あまりに勢いよく流れるために冷たさにさらされているような感じで、おまけに濃厚な成分、いろいろな意味で冷鉱泉の心地よさとは無縁のお湯だった。
ここのお湯は柔らかく、湧出量は多いが皮膚の上を流れていく気配が全然なくて、むしろゆっくりとお湯が周りから全体に入れ換わっていく温度差を感じられ、それを静かに体全体で知覚していると、時間の経つのを忘れる。
30℃のお湯、といっても様々で、お湯の<温度>という要素だけをつまみあげて、温泉の何かを語ることは到底できない。
ご主人によると、板の下の岩の深さは2mを超える部分もあり、そんな岩の深みからしみ出てくるお湯のパワーをヒシヒシと感じられる、そして何時間でも浸かれる優しいお湯で、
私はすごく気に入ったのだった。
あ~ できれば夜中じゅう、入っていたい気持ち。
7時半に新しいお湯のポットを持ってきてくれて、
8時に朝食。
シジミのお味噌汁がおいしい。
チェックアウトが11時なので、朝食後も1時間半、入る。
例のスポンジで突っ伏せるところは階段の下、1カ所しかないのだ。
そこを定位置としました。
いいお湯でした~ ありがとうございま~す
帰りは送ってもらわずに歩いて駅まで。
ゆるい下りになっていて、日差しもあまりないが、風がとても強い。
新緑の軽やかさは今や昔、あとはひたすらモッサモッサ茂るだけね。
下部温泉… なかなかいいお湯だった。
高温の温泉を掘ったとかいう話もあって…
そんなことしなくても、と思うが、沸かさなくてもいいので、宿にとっては負担が減るのかもね。
「あるがままに」 というのは、できそうでできないことなのかもしれない。
帰った翌日、宿から葉書がきた。「お越しいただき、ありがとうございます」
あの明るい女将さんの笑顔を思い出し、嬉しくなった。
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