糠平温泉 中村屋

(2009年1月12・13日 1人泊 @13,125円+暖房費525円)






糠平温泉 中村屋

朝10時に芽登温泉から上士幌まで車で送ってもらった。
上士幌の街は、何もない。家と家の間隔がすっごくあいている通りを歩いてはずれまでいくと、
もう雪景色の草地が広がっていた。

時間をつぶすところなんかどこにもないのであった。
豚丼、と書かれた定食屋みたいな店を1軒見かけたが
やってるのかな… 当然喫茶店のようなものは見当たらない。

仕方ないので、11時では早すぎるけど
糠平(ぬかびら)温泉に向かうため、目の前にあるにタクシー会社に歩いていって乗り込む。

糠平温泉 中村屋

道の雪がどんどん溶けていって、運転手さんは「走りやすいね~ こりゃ早く着くよ」といたく喜んでる。

そうでしょうね。でも私はちょっとがっかり&ハラハラ。

糠平温泉の様子を聞いたら
「あそこも、旅館街はあるけど宿以外はなにもないだろな。あ、スキー場があるからそっちまでいけばコーヒーとか飲めるかも。でも早く着いてもきっと宿で入れてくれるよ」

(そうかな… だって12時前に着いちゃうのである。いくらなんでもそれは無理でしょ… 少なくとも本州の感覚では。)


糠平温泉 中村屋

着いちゃったよ…困ったね… 30分もかからないうちに…  どーんと横長の大きな宿であった。

荷物を預かってもらって、それからどうするか考えよう。

フロントで名前を言うと、社長夫人らしき、つまり本州ふうにいうと女将さんらしき女性が
チラッと時計を見て(そりゃ、見るわね、こんなとんでもない時間に着いちゃえば)

「そこにコーヒーがありますから、それでも飲んでちょっと待っていてください。20分ほどで部屋のお掃除を済ませますから」


糠平温泉 中村屋

えっ?! 

「この時間にチェックインしていいですか?」
「いいですよ。急いでやりますから、ちょっと待っててくださいね」

糠平温泉 中村屋

ああ~!!  こういう配慮って、ホント嬉しくて涙出そう。

この何にもなさそうな温泉街をウロウロして、したくもない日帰り入浴とかして3時間近く時間をつぶすのかと思うと、かなり憂鬱だったのだ。

糠平温泉 中村屋

チェックアウトする家族連れなどが去ってしまうと、たいへん静かなロビー。

ほっとして、ゆっくりコーヒーをいただいた。




糠平温泉 中村屋

やがて「お部屋の支度ができましたから」と、2階に案内される。

この、新しくできた、窓が広々としたお部屋に泊まりたかったのである。トイレはなし。
なんと12時前にお部屋に通していただいた。



糠平温泉 中村屋

景気のいい一時期に建てられた、部屋数が多い旅館である。
それらの部屋は、当然いまどきの客が好まないタイプの部屋だろう。

観光バスで団体が来るようなことはなくなり、宿も老朽化してきたいま、
この宿は、家族で宿の改装をやりだしたらしいのである。

糠平温泉 中村屋

どうやら洗面台の前の大きな鏡にヒビが入っているのは、しろうと・手づくりゆえのことのようである。
はめ込みなので改修するにしても大がかりになりすぎ、せっかくの大きな鏡にヒビが入ったままになっているのだろう。

  糠平温泉 中村屋   糠平温泉 中村屋




糠平温泉 中村屋

大きな窓の外には、雪景色の、素敵な眺めが広がっていた。

しかし座ってみると、木張りの床を果てしなくズルズルと動く座椅子と座布団。

座椅子に座ってボーッとのんびり外を眺めたいのに、気が付くと動いているというジレンマ。
そう、私はいつでも100円ショップで売っている滑り止めシートを持ってきたほうがいいのかもしれない。


糠平温泉 中村屋

使い込まれた懐かしいちゃぶ台。ちょっと頼りなくグラグラするが、そっと使えばなんとか。

糠平温泉 中村屋









どーんとひらけた1枚ガラスの下のほうに、

あら! 温度計が。


糠平温泉 中村屋

あったかい部屋から
「おー! 外は-10℃だ!」と、喜べるわね~。

        糠平温泉 中村屋  糠平温泉 中村屋


糠平温泉 中村屋







廊下は暖房が効かずにかなり冷え冷えとしている。


糠平温泉 中村屋


糠平温泉 中村屋

この時間は新しくできたお風呂場が女湯。もとからある内湯は男湯。
女湯の脱衣所は木造りでこぎれいに改装されていた。



   


糠平温泉 中村屋

湯気がこもった女湯。天井から雨のように水滴がボタボタと落ちてきて、不安になった。
冬場のこの状態だと、風呂場の天井からすぐに傷みが始まるのではないだろうか。

青森の青荷温泉で新築の風呂場の工事をやっていて、新築なのに何を直しているのか不思議に思って宿の人に聞いたら
「湯気抜きに失敗したんだ。以前の風呂場はそんなことがなかったんだけど、新築したら湯気が抜けなくてね。
急いで直さないとすぐに天井から傷むから。すみませんね、うるさくて…」

かつては、それぞれに違う造りの風呂場に、
大工の棟梁の長年の経験と技術ですぐれた湯気抜きが造られたのだろうが、もはやその技はなくなってしまったということなのだろうか。



糠平温泉 中村屋

廊下の上の、ひと昔前の照明。
これからこういうものを上手く使えば、いい感じになるんじゃないかな。
それにしてもこのガランとした大きな建物を変えていくには、なかなか大変なものがあるように思う。

越後大湯温泉の友家ホテルも、老朽化した大きな建物の部屋やお風呂を少しずつ変えていって、その努力が目に見えているので、おいしいお食事を思い出しながらまた行ってみたいと思わせる。

努力しつづける宿はそれに報いられるものが必ずやあるはずで、この宿にもそんな楽しみを感じられるのであった。

糠平温泉 中村屋

新しく造られたという露天風呂への階段。



糠平温泉 中村屋











さすがに外気がかなり寒い。
木造りですがすがしい長い階段のアプローチ。


糠平温泉 中村屋

ここは混浴で、女性タイムが夜あるのだが…



糠平温泉 中村屋

誰もいなかった。
先客が忘れたらしいタオルが凍りついていた。

糠平温泉 中村屋




お湯は無色透明。熱め。




糠平温泉 中村屋


糠平温泉 中村屋









ときどき風がふわ~っと湯気を巻き上がる。
お湯につかりながら空気を吸い込むと、冷たくて気持ちいい!


糠平温泉 中村屋

すぐ後ろにも宿があるので、眺望は望めない。

お湯の熱さにときどき上半身をお湯から出して体を冷ましながら、気温との落差を楽しむ、
これぞ雪見の露天の醍醐味。





糠平温泉 中村屋

夕食は食事処で。
暖かな部屋を出てちょっと寒い廊下をかなり歩き、1階の奥に。

本日宿泊は私1人であるが、暖炉に火を入れてくれてある。かなり大きな食堂。

糠平温泉 中村屋

テーブルにすでにセッティングされている。
この宿は、若女将が “摘み草フレンチ” と称して、春には珍しい野草の天ぷらとか出すんだそうである。

糠平温泉 中村屋





しかし食事に関して言えば、たぶんそれは “フレンチ” とはかけ離れたものなんじゃないだろうか、と、想像できるものたちが並んでいた。

         糠平温泉 中村屋

料理はこまごまと、そして品数がたくさんあり、味も飛び抜けたものがないので、散漫な感じはいなめない。
煮豆の隣にスモークチーズが並んでいたりして、ちょっと途方に暮れる。
なにより、ほとんどの切り方が千切りと輪切り、そしてそのバージョン、というので飽きてくる。

糠平温泉 中村屋

頑張って特別細く千切りにしました!というジャガイモより、私は丸のままホイルで蒸し焼きにしたジャガイモにバターを付けて食べたい…

「この辺の特産の、長芋のスープです」というものは、長芋をスープにしておいしければ嬉しいが、
長芋を使う意味がないのであれば、私は北海道産のコーンスープのほうがありがたい…


糠平温泉 中村屋

          温かなものを運んでくれるのだが、次から次へとなので印象が薄くなる…

糠平温泉 中村屋

柔らく煮込まれた鹿肉のシチューはおそらくメインディッシュであろうから、視覚的にもう少し華やかな演出をすれば、道外からの客は喜ぶのではなかろうか…

糠平温泉 中村屋




天ぷらは、
もちろん揚げたてで熱いのを持ってきてくれたのだが、
正直私は少々引いたのであった…

糠平温泉 中村屋

                       味噌汁には輪切りの葱と半月切りのニンジン。

糠平温泉 中村屋

デザートが出てきたときには、私はかなり疲れていることに気づいた…





糠平温泉 中村屋

料理の量が多いのが好きな人もいるだろう。
いろいろ品数があることが、おいしく食べることの基準となっている人もいるだろう。
さまざまな好みがあり、それはそれでいいのだ。

私は疲れてしまったけれど、この宿のいまの料理がいい、という人たちもたくさんいると思う。



この宿は、宿の人の手づくりの木の箸を食事のときに出す。

先端がわずかにたわみ、2本の木の棒を合わせると隙間ができるもの…
それを<手づくり>であるゆえに「笑って許してね~」というゆるい発想で客に供すること、
それは宿の将来にとって如何なものであろうか。

もちろん私は「笑って許せる」客ではあるが、できれば真っ直ぐな割り箸のほうを使いたかった。
これらの箸を作った人は、その木の棒を1本ずつじっと見つめたことがあるだろうか。

箸とは何か?箸はどういう機能を持つのか?どんな箸が使いやすいのか?どんな箸が使いにくいのか?
そしてどんな箸を客に供したいのか?

箸とは何か。この宿は何ゆえ箸を<手づくり>したいのか。

「北海道だし、この辺にたくさんある木を使って、なにかできないかな~ …」と思って、箸らしく見えるように2本の棒に削ってみました、ということでは、客の心の琴線に触れることはできない。






糠平温泉 中村屋

たかが箸、されど箸。
明治の評論家 斎藤緑雨が「…按ずるに筆は一本也、箸は二本也」と書いた<箸>である。

<手づくり箸>をとことん尽きつめて考え試行錯誤して作り、その結果できた箸を客に使ってもらったときに

「あ、この箸使いやすい! 買って帰りたい!!」
と思わせるものが必ずやできるはずである、と私は思うのだが。
そしてそこまで凝視し突き詰めて作った暁には、箸で名を馳せる旅館となることも可能なはずである。




それがプロフェッショナルというものではないだろうか。




      糠平温泉 中村屋  糠平温泉 中村屋
         朝はおいしい牛乳がドアの横のバッグに入っている。小瓶なので朝食前にいただけた。




糠平温泉 中村屋

                        朝食もまた悩殺的にたくさんあった…

糠平温泉 中村屋

                             これらのほかに…

糠平温泉 中村屋

                             湯豆腐である…

糠平温泉 中村屋

                        ヨーグルトと、そしてコーヒーも出る。







糠平温泉 中村屋

もとからある内湯の大きめの脱衣所は、直されていないようであった。

糠平温泉 中村屋

ドアを開ける。
高い天井、広い空間の割に小さめの湯船が真ん中にある。

湯気はあるが、湯面から少し上に漂っているようで、天井にかけては消えていた。
窓はなく空気の流れはないが、高い天井のため上部は冷やされるようであった。

糠平温泉 中村屋

天井に貼られた細かいタイルは美しく、わずかな欠落も剥離もないアラベスクのような見事な装飾だった。

糠平温泉 中村屋

花形にカーブした、たいへん珍しいかたちの小ぶりの湯船で、ここのタイルもあまり欠損なく保たれていた。

糠平温泉 中村屋

湯口からかなり熱いお湯が細く落ちる。

糠平温泉 中村屋

湯船につかると、顔のあたりは湯気がこもらず視界も明瞭で、とてもよいコンディションになっていた。

糠平温泉 中村屋

透明なお湯が映えるように、たいへんよく計算されたタイルの大きさ、配置、配色。


糠平温泉 中村屋

これは職人たちの魂の仕事である。

このような美しい湯船を持つことは、この宿の誇りであろう。

糠平温泉 中村屋





お湯は熱めなので長湯できないが、なんと心地よく美しい風呂場であることか…

この宿は、この風呂場こそ前面に押し出して世に知らしめるべきだと思うのだけれど…






糠平温泉 中村屋






糠平温泉 中村屋







本日も1人である。
お給仕してくれた社長夫人とお話ししながら。


糠平温泉 中村屋

たぶん社長夫人はうすうす気づいていらっしゃるのである。
うっかりすると<手づくり自己満足の宿>になってしまうのではないか、と。

糠平温泉 中村屋

どこかで<井の中の蛙>になってしまってはいけない、と。

糠平温泉 中村屋

お話ししていて、そう感じた。

その思いがあれば、まだ幼い孫たちがもう少し大きくなったら、若女将も動けるようになって、
世間を見渡し、ほかの宿も見回し、自分たちの目標を見つけて、新たな<手づくり>の展開ができるのではないだろうか。

しかしこのスピードでは… それに至るのは孫の時代か…

私は内心、思わず笑ってしまったのであった。
なぜって、その大らか、セカセカせずに孫の代に向かってのんびりと過ぎていく時間こそが、
たぶん北海道時間なのであろう、と。

糠平温泉 中村屋

ただし、お話ししていると、温かいものはどんどんと冷めていったのであった…

糠平温泉 中村屋

まあ、それでもいいんだけど、私は。





糠平温泉 中村屋

北の大地の温泉宿で、社長は頭にタオルを巻きボイラー室で工具を使って修理をしていた。

糠平温泉 中村屋

冬の間、一夜明けるごとにツララが伸びていくように、
宿で続けている努力がいつか実る日がくるといいね。

糠平温泉 中村屋

客とは宿のそういう意識と変化を、とても敏感に察知するものなのである。



   

糠平温泉 中村屋


糠平温泉 中村屋






糠平温泉 中村屋







私はとてもいい部屋で2日間を過ごし、
糠平温泉が好きになり
宿の前から出ている帯広行きのバスで帰路についた。




糠平温泉 中村屋




糠平温泉 中村屋

                             冬の北海道の温泉は…





糠平温泉 中村屋

                               すごく好きなの。










トップに戻る

powered by Quick Homepage Maker 4.15
based on PukiWiki 1.4.7 License is GPL. QHM