(2009年11月1日 1人泊 ネット限定@6,000円)
濁川温泉 新栄館の日帰り入浴ののち、Yおじさんの車で本日の宿、二股らぢうむに。
海沿いの国道から山の1本道に入る。
雨が降ってきたが、紅葉はまだ残っていて、明日天気になればかなり楽しめそうな道だった。
Yさんは道南の松前に住んでいる。
気が向いたときにあちこちの道南の温泉に行っているそうだが、二股らぢうむはまだ未湯で、前回奥美利河温泉・山の家に行こうか二股らぢうむに行こうか迷った結果、山の家に来たのだそうである。
「Yさんは、今日どうされるんですか?」とお尋ねしたら、
「いや~ 二股らぢうむ、泊まってみたいんだけど…」と、そのあとためらっているから…
どうしたのかな~?
そうしたら「迷惑じゃないかい?」と…
つまり二股らぢうむも水着着用可の混浴の露天だし、1人旅が好きだという私と、もちろん部屋は別だけど、一緒に泊まって迷惑ではなかろうか、と言ってくださったのであった。
Yさんがデリケートな配慮をしてくださる方だと知って、私はたいへんありがたかった。
が、迷惑どころかぜーんぜんそういう配慮は必要ないので、Yさんさえよければ、ぜひご一緒に!
というわけでYさんは隣の部屋にチェックイン。
6畳・洗面・トイレなし。暖房はすごく効いている。
布団は自分で敷く。ここの敷布団は煎餅布団で、2枚あったので何とかなったが、それでも薄くてちょっと辛かった。
シーツ・枕カバー、浴衣、タオル、歯ブラシあり。
そして、北海道で初めて見る、ブローチみたいに小さな
<温泉饅頭>!
いままでたびたび北海道に来ているが、温泉饅頭を見かけたことはない。
ネット限定6,000円の部屋は、目の前が駐車場。
9,000円くらいの部屋だと、もっと眺めがいいんでしょう。
私はコンパクト&リーズナブルでここで十分である。
なんてったって川古温泉 浜屋で買った湯浴み着に手を加えて、すごくいい露天用湯浴み着にしてあるのだ。
ゲームのダンジョンズ&ドラゴンズで、最強のアーマーをゲットしたような気分なのである。
まず、グレーで主張しない色だから「私、着てます!」みたいに見えない。
そしてピラピラした裾は真っ直ぐに切り、モコモコした肩ひもは取ったのでシンプルになった。
不織布なので水キレが良く、ロックコンサートでタオル振り回す要領で5~6回ブンブンとさせると、ほとんど水分がなくなる。少々かさばるが、軽いので荷物の負担にならない。
いや~ これさえあれば怖いものなし! だれがいたってどんどん入れる!
で、着込んでおじさんが3人ほど入っている露天にトップ~ン。 いや、噂に違わずすごいわね~
あそこの四角い部分は寝湯なんですって。
だけど、いったいどうやって行くんだ? この湯船が新築されて8年ということらしいが、もはや周囲には分厚い堆積物が付着している。
この下の湯船のように見える所にもどうやって行くかわからない。ずり降りて行っちゃおうかと思ったけど、上がるところが見当たらない。
えー!! 下の湯船に行けないの?!
いくら観察しても行けるようにはなっていないのだった… なぜ?! 湯船があるのに…
もしかすると、あの木の板を渡って寝湯に行くんだろうか。
入る人は皆無で、あとで寝湯に手を入れてみたら、冷たかった。
いろいろ不明な風呂である。
女湯内湯。この宿の風呂は、女性は全部行ける。水着、タオル巻きOK。
毎分、1トンの湯量である。
左は段差があっていちばん深いところは1m20㎝くらいの立ち湯になっている。
女湯の露天は、堆積物の山の上のほうにある。
ちょっと前だったら、とても綺麗な紅葉だったに違いない。
お湯の味は、しょっぱく、ちょっと炭酸の感じがあり、甘酸っぱく、そしてすごくえぐい。
島根の三瓶温泉 熊谷旅館のお湯から炭酸分を引いたような、あるいは那須・老松温泉 喜楽旅館のお湯に炭酸を足したような、濃厚で複雑、強いお湯である。
混浴の内湯もふくめ、お湯の温度が36・38・40・42℃といろいろあるので、長時間入れる。
とくに露天はぬるめに設定されていて、いつまでも入っていられる。
しかし、初めてのお湯はご挨拶程度にしておかないと…
とは思えども、すごく気持ちよいのでついつい長風呂となってしまうのだった。
夕食は5時から6時の間、ということで、やっぱりそうとう強いお湯だったので、出てから部屋でクッタリしていたら、
宿のおねえさんが5時半ごろに部屋をノックして
「夕ご飯ですよ~」 別に感じが悪いわけではないが。
Yさんの部屋をのぞいたら、やっぱりクッタリしていた。
「いや~ 気持ちいいけど、ちょっと体にきましたね~」などと言いつつ食堂に。
<健康に良いお食事>という感じ。お味もそういうお味。それプラスα、というものはない。
人は、その α の部分に何かを感じるのであるが。
大食漢、もしくはグルメ、そして9,000円の部屋の人は文句言いそう。
我々は特に文句なし。そしていちばん最後だったから、できればさっさと早く片付けたかったみたい。
ご飯、五穀米のお粥、お味噌汁はセルフサービス。
夜もまったりまったり~
月が出て、そして昼間の雨が雪となって降っていた。一緒に入っていた人が
「虹が見えるんですよ」と言うのでよく見ると、背後からライトが当たって、湯気で虹ができているのだった。
不思議な景色であった。
こんな空間と時間を、知りあったばかりのYさんと、温泉談義をしながら入っているのも、なんだか不思議で夢のようであった。
結局また2時間ぐらいYさんとおしゃべりしながら入ってしまいました。
いや、このお湯はあとで疲れるかもね… と気がつくのが遅いのよね。
内湯もお湯が豊富、そして湯船によって温度も違うので飽きないの。
湯膜が張っていて、入ると体にまとわりつく。
湯船の内側のサイドにも、見事なイボイボができている。
この宿は、2001年に東京の経営者に変わった。
なんでも以前はたくさんの湯船があり、より見事な石灰華のドームがあり、中には雪の重みで潰れるものもあったそうで、それらの景観と宿の鄙び感は失われたらしく、以前を知る道民にはいたく評判が悪いらしい。
たしかに人間の手では絶対にできない、せっかくの天然の創造物をもっと生かしたらいいのに、とは思える。
翌日は、雪景色だ~! なんだか嬉しい!
そう、私って単純!
宿の鄙び感はなくなっても、お湯を求めて湯治の年寄りの人たちがたくさん来ていた。
だから少々不満はあっても、宿が存続していることはいいことなのではないだろうか。
だってパジャマ姿の老人たち、たぶんここで知り合った人たち同士が
「あんた、こっちのほうが日が当たってあったかいよ」とか「ご飯持ってきてやろか?」
とかお互い思いやりながら湯治しているのだ。
病院じゃなくて湯治場ならでこそである。
考えた末、朝は入らないことにした。
じっくり休みながら入るタイプのお湯である。
半端に朝入った挙句、夕方飛行機に乗るまでを、気だるく過ごすことになるのは目に見えている。
プール。たぶん歩行浴のためでしょう。
しかし、だれも入らないのであった。眺め、良さそうなのにね。
宿が目指す理想と、現実の、とてつもない乖離でしょうね。
足湯、そして雪見の露天の写真だけ撮りに。
だれもいなかったので、ちょっと入りたい誘惑にかられました…
この風景を眺めながら時々お湯に足を浸け、写真など撮っているうちに……
なんだか私は無性に大笑いしたくなってきたのだ。
だれもいないとはいえ、ここで笑ったら聞こえる人もいるかもしれないと(だってかなり変でしょ?)
必死で堪えたが、
それでも笑いを禁じえなかった。くっくっくっくっく…
そんな人がいたな~… どこかで読んだな… 誰だっけ?
ああ! 寺田寅彦だ!
台風銀座の高知で、暴風雨のただ中、窓を開けて暗く渦巻く自然の猛威を見ながら、腹の底から豪快に笑っている寺田寅彦。
この景色を見たら、彼はやっぱりここでも豪快に笑うんじゃないだろうか。
佇んでいる私の目に、この光景が高速度写真のようにみるみるうちに変化していくさまが見えた。
堆積し、変形し、変化し、流れていき、そして押し寄せ、やがてすべてを覆い尽くし、その上をお湯が駆け巡る未来が見えるような気がした。
この自然のダイナミズムと威力の前には、いかに立派な湯船を造ろうが歩行プールを造ろうが、人間の造るヤワなものなんぞすぐに埋もれていき、そして無きに等しい。
50年後の風景を想像して、いつまでも笑ってしまった。
これほど、自然と、そしてお湯の視覚的なパワーを感じたのは、初めてである。
今現在はね、もうちょっと客の願望を満たす造りにすると、
ずっとよくなるのではなかろうか。
でも、構造上の問題とか、とくに経済的な問題とかあるんでしょうね。
Yさんが宿の人に聞きだしたところ、昔からあるこの下の湯船は、いまは排水の溜まりになってるんだそうです。
もったいない!
で、宿の人は掃除のときなんかに入るんだそうです、ここからの景色がすごくいいから。
宿の人がいいと思える景色は、客だっていいと思うんじゃない? この湯船まだ使えるのに。
なんやかや思い、久しぶりにおなか痛くなるまで笑い、そしてすごい風景と、いいお湯でした~ 来て良かった!
雪景色を抜けて…
一路、道南へ…
Yさんが、大沼公園に連れて行ってくれました。
この辺はまだ緑の草と…
秋色が進んだ木々と…
そして函館駅は雪だった… Yさん、ありがと~う!
また来よう。
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