(2010年1月28日・29日 1人泊 @14,800円)
昨日やっとひと仕事終わったのである。今回、身も心もヨレヨレになった。
新幹線の新白河駅に降り立って… あら、芭蕉さん!こんにちは!
そうか、芭蕉は深川を出てから白河の関を越えて、やっと旅心が生じたんだったわね。
私は旅心どころか、昨日の今日、心が硬直したまま新白河の駅前に立っているのであった。
午後1時。
宿の送迎車は1時20分とのことだったが、あ、あそこに止まっているのは!
もう迎えの車が待っていてくれた。
この2台、ちょっとほかの駅では見かけないツーショットかも。
車で市内を抜けると、しばらくして雪が見えてきたが…
あまり積もっていないし、ちょっと溶けてきていてきたなめ。
なんだか春先の風景のようです。
それでも宿に近づくにつれてやっと雪景色が。
山肌が見えているが、まあそれなりにまともな雪景色になってきました。
甲子トンネル開通に合わせて、それまで冬季休業していた宿が、
リニューアルオープンして通年営業に。
ちょうど休業中に電話したら、
ご主人とおぼしき人が
「リニューアルしたら冬も営業しますのでね、ぜひお越しください」
まあ! そりゃ、行かなくっちゃね!!
で、大雪を期待してきたら…
だって私、雪景色に癒されたかったのよ。
でもね、意外に少ないのね。
フロント。
本日宿泊客が少なくて、私以外もう1組らしい。
しかしおなじみさんの日帰り入浴客はかなり来ている。
宿では新白河駅まで日帰り用に送迎車を出しているとのこと。
大きく取られた硝子戸から雪景色。
フロントもロビーも真新しく、すっきりとしている。
以前は鉄筋だった宿を木造にして、天井にはクルミの木の太い梁が。
段差が少なく、おしゃれな床暖房のお部屋。今回1階。
洗面台。下にからの冷蔵庫。
電気ポットとお茶セットあり。
シャワートイレ。
8畳の部屋、4畳分くらいの廊下付き。とてもゆったり。
そしてうっかりすると
<デザイナーズ温泉>になりかねないところを、
<デザ>くらいに抑えているので、たいへん結構。
障子は4枚すべて引き戸に入るもので、そういう配慮もたいへん結構。
案内してくれたお嬢さんから風呂の説明を聞き、この時間入れるのは下の混浴大岩風呂の隣にある女湯の
「桜の湯」ということだったので、 では出発進行~
フロントの脇を通り…
食事処の前を曲がり…
別棟の通路に入っていって…
いまお掃除中の泉質の違う風呂の前を通って階段を下り…
スリッパを、サンダルもしくは長靴に履き替えて階段を50~60段ほど下り…
そしてもうちょっと下り…
あ、あの橋の向こうよ!
これが阿武隈川。
着いた~
しかし、ああっ…
みぞれ交じりの雨なんか降って! 許せ~ん!!
できたばかりで、たいへんきれいな脱衣所。
だれもいない。 木の香が漂う。
私はロボットのように服を脱ぎ、ドアを開けて桶を取り、かけ湯し、またかけ湯し、
いつもだったら感じるワクワク感もなく、つるっとお湯に入った…
入った瞬間、うめき声が出た。
ううううっ
お湯はぬるめで気持ちよかった。体を動かすと、再びうめき声が…
うううううっ
? なぜかうめいてしまうのだった。
しばらくして…
やっといま解放されて温泉に浸かっていることに…
なんとも深いため息が出てしまった…
うううううううっ
ある<におい>を感じて断っていた仕事なのであった。
それが、ある人がよんどころない事情で抜けるので代わりに入ってくれと言われて、
ではその人が戻るまで、そんなに長期ではなかろうと思い、
その間は代わりに頑張るからと引き受けたのであったが…
感じていた<におい>は的中して、
それはつまりいくつかの組織の集合体における責任回避の構造に起因するもので、たぶん。
その環境で金を貰えればいい、という人もいるだろう。
私はそこにいると脳味噌がぐじゅぐじゅ音がして腐るんじゃないかと思った。
その生理的な気持ち悪さに、ここで叫んだら大騒ぎになるに違いない、とは思いつつも、多々叫び出したい思いにかられた。
狂気、などという御大層なものではないが、叫んでいたら狂気と言われかねないものであったろう。
日常で、道路に描かれた落書きの白墨の線をまたぐように、あるいは踏むように、
一線を越えるなぞなんとたやすいことか。
そう思ったのだった。
よんどころない事情は続き、抜けた人は当分戻れそうもないことが分かったときに私は、
自分の精神が不健康になるような環境に身を置くことは止めようと思った。
しかし今回は最後までやらねばならない。その苦痛たるや…
だがなんにでも終わりは来る。
わたしは湯船の温かな木の枠に突っ伏し、腕に顔をのせて揺れていた。
これだと湯枕・仰向けスタイルと違って息を吸い込んでも背中が出るだけで、安定して揺れていられるのだ。
だれか入って来る気配は感じたが、
もう途中からは外界がどうなっているのか判断できない状態で1時間ほど浸かっていたらしい。
気がつくと、湯船には私しかいなかった。
寒天か高野豆腐が水を含んだような感じだった。
やっとまともに… というか… なんだかまだ、ロボット以上人間未満、みたいな…
部屋の椅子に腰を下ろすときに、またうめいた。
うううっ…
食事は1階の食堂で。昼間は日帰りの人が食事できる。
見た目もきれいなセッティング。
そば粉で作ったお餅やユリ根、チーズと牛肉など。
こうばしく焼いたお餅が入っていて、おいしい澄まし汁。
岩魚&きゃらぶき。
温泉水を使って蒸し上げた牛肉は、量もたっぷりあってしっかりとしたお肉の味。
あまりの多さに半分残す。ポン酢であっさりといただけた。
鳥のツクネのはいった汁と、おいしいお米のご飯。
デザートは、特大のイチゴとオレンジ。
おなかいっぱいで、お部屋に持ち帰る。
今日はね、女性3人しかいないの!
で、日帰りの人ももういないし、どの風呂も入り放題なの!!
男性用の風呂もどうぞ~って言われたの(笑い止まらない~!!)
もちろん混浴の大岩風呂も女性時間に関係なく!!
おお~~! これ独り占め!!
外は風が強くもう1組の女性たちは来なかったから、私は延々と1人で入っていた。
お湯の温度は私にはちょうど良く、つまりかなりぬるく、人によってはぬるすぎてだめかもしれない。
宿は改築したが、この湯小屋は変えておらず、その木組みの高い天井や、換気扇のない静けさや、
広々とした湯船と豊かに入ってくるお湯の量に、深く満足したのである。
目をつぶってたゆたっていると、ときどきバタバタと音がして、人が来たのかな、と目を開けても誰もおらず、風が激しくノレンを巻き上げているのだった。
しかしあるとき、ガラガラ、バーン!と金属的な凄まじい音がして、こんなやかましい音は誰かがいたずらで出しているのかしら?と思ったのだが。
帰りに表に出て周りを見回してみると…
屋根の雪が溶けて、金属製のベンチに落ちた音だったようだ。
朝食もおいしくいただいた。
混浴の岩風呂も、日帰りの人が来る10時までは自由に入れるのですっ飛んで行くの~!
70~80個のカゴが入りそうな棚。
硝子戸を開けると目の前に湯船が。
縦5m、横15m、深さ1.2m だそうである。
まん中あたりの上部に木の仕切り板があるが、下はお湯が通る。
お湯は無色透明の単純泉、飲んでみると柔らかな味がする。
このお湯なら何時間でも入っていられそう。
疲れないし、肌にも優しい。
そしてこの広さがなんとも気持ち良い。こんなふうに1人で入れるなんてとてもラッキーであった。
ふわあ~~ やっと人心地~~~
下の岩の間から別の温泉が湧き出ていて、
ちょうど足の先あたりから、35~36℃の冷たさを感じるお湯が上がってくる。
とてもとても幸せなひとときを過ごせた。 あ、なんか貼ってある! え?
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」… ホント!!ありがとうございます!!
ありがとうございました!!
よく晴れたので散歩。宿の奥を下っていくと阿武隈川に沿って堰がある。
水は凍ってはおらず、小さな流れが上から落ちていた。登山道の入り口になっているが、この時季こんもりと雪が積もり、歩いた形跡はなかった。
泉質の違う新しいお風呂は露天もある。
昨日おじさん風呂ものぞいてみたが、庭の小さな露天は女湯のほうが風情がある造りだった。
小さな内湯。
お湯は大岩風呂よりかすかに塩味を感じるお湯で、露天も内湯も適温(私には)。
人があまりいないので、どこも心地よかった。
2日目の夕食。川魚が多い。
このへんで養殖されている<雪鱒>だそうです。
シコシコした歯ごたえ、おいしいお魚でした。
エシャロットともろみ。野菜のサラダ。
あらまぁ… しし鍋で… 分かっていたら変えてもらうんだったが。
<雪鱒>の赤ちゃんと、ゴボウ、ニンジンの素揚げ。
本日鮎、そしてなぜか牛肉が添えられてました。
汁ものの代わりに蕎麦が… お昼に蕎麦食べたしな~ 入りません。
デザートは豆乳のシャーベットと、丁寧に皮をむいてくれてあるハッサク。
川魚が多いのは山の宿ならでは。でもいろいろ工夫してくれている。
朝ご飯、鍋は湯豆腐。食べなくてもよかったんだけど、お味噌汁くらい飲もうかな~って。
ご飯の炊き方にバラつきあり。昨日のほうがおいしかった。
そして15分で食べ終えたら…
大岩風呂に駆け下りていき、誰もいないのを見はからって、入る!
独り占めで~ 入る!
服を着終わったら硝子戸が開いておじさんがのぞく。あわてて戸を閉めようとするから、
にっこり笑って「どうぞ、お入りください。いま出るところですから」
朝食は早めに切り上げるに越したことはないのだ。
癒された~~~!!
やっと人間らしくなって、帰路についたのであった。
新白河駅のエスカレーターの降り口のところに、来るときには気づかなかったプレートが貼られていることを発見。
何だろうと思って見てみると<白河>の語源に関することが書かれていた。
「一説によると、ここを流れる白川という小川が語源、もう一説によると、アイヌ語の<シラガー>(我々の陣地)という言葉がその語源」というのを読み、私は衝撃を受けた。
東北地方にはアイヌ語が語源という地名がたくさんある。米沢駅にもそう書かれたプレートがあった。
関東と東北の接地、芭蕉が「奥の細道」を旅するにあたって、関東平野を抜け、日光から那須に向かい、その後「白河の関にかかりて 旅心定まりぬ」と書いた地である。芭蕉はこのあたりでは俳句は作っていない。
<シラガー> 我々の陣地…
芭蕉が旅心と憧れをもって足を踏み入れた、
謎と、未知と、危険と、魅力に溢れた <みちのく> (未知の奥)が…
ここから始まる…
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