(20010年12月4日 2人泊 @12,750円)
あーあ… お金ないしな~ どこにしよう…
母が電話してきた。
「久しぶりねぇ、元気?」
じつはわりと最近、電話してきたのだ。そのときも
「久しぶりねぇ、元気?」だったので
「この前電話してきたじゃない。元気よ」
と言ったら、
「あ?そうだっけ?」
お出かけ催促… ではないだろうが、なんといいましょうか、無意識の催促?
そうね、母とのお出かけ、ちょっと間があいてしまったしね。
ほとんど出歩かないから、私と行く温泉が唯一の楽しみなのは分かっているけど。
夏にこもりっきりで過ごした私は、その反動で10月にちょっと遊びすぎちゃって
お金がないからさっ。 でもありがたいことに最近は母も遠出はしたくないようで。
交通費が安い福島あたりにするか! <えきネット>で新幹線25%引きだし。
高湯温泉は、私は今まで敬遠していたところなのである。
あのあたりの温泉宿の風呂は うーん… よく言えばこぢんまり、
なんかこう… 逼塞感がありゃせんだろか… という懸念ね。
できればそれが杞憂に終わってほしいものではあるが、
しかし自分1人で行くのはともかく、この際予算との兼ね合いで母が楽しければそれで良しね。
寒くなる前にとにかく連れていかにゃ。
で、母に電話して「11月の終わりごろどう?」と聞いたら大喜び。しかし
「11月の終わりは歯医者に行く予定があるから、12月の初めがいいの」
ふ~ん。老人のスケジュールは病院がメイン。
宿に電話したら12月の土曜は50周年記念で平日料金なんですと!
いや、ラッキー! 平日料金なら多少文句あっても目をつぶるお安さ!で即決。
本日は東北新幹線が新青森まで開通。
しかし上野で乗るときに「強風のため山形新幹線が不通」のアナウンスが。
ちょっと嫌な予感。だって福島って風が強いもんね…
不安適中!
乗ったはいいが小山で止まったまま動きゃしないわ。
「強風がおさまるまでお待ちください」って言ったっきり。
「いつ走るのかしらねえ」と母に聞かれるも、答えようないわね。
「風がおさまったらです。なるようにしかならんわね」
はあああ…
やっと動き出すも、また停まり、またちょっと動き…
その都度「強風がおさまりましたら…」とのアナウンス。
やれやれ。
結局3時間待たされて、福島に着いてから特急料金2人分5,800円ほど返してもらい
本数少ないバスを待つよりとりあえず明るいうちに着きたい私はタクシーに乗る。
タクシー料金5,700円ほど。
なんか辻褄合いすぎ!
夕暮れ迫る中をそそくさと宿の門をくぐる。
宿との電話で、地下に風呂があるとのことだったので、母のことを考えて1階の部屋にしてもらった。
多分2階のほうが眺めがいいだろうが、それにこだわるほどの眺めではなかろう。
とにかくセカセカと部屋に入り、
あら~!なんとも狭いというか、天井低いというか。
壁の中に鏡台と小さなテレビ。
狭いなりに揃ってはいるが、ここに2人だとのっけからの圧迫感あり。
やっぱり…
「でも、こぢんまりしてていいわよ」とのこと。
入り口入ってすぐに冷蔵庫、トイレの中に小さな洗面台がある。
いちおう何でも揃っているが、狭さのあまり逆効果となって、私はなんだか酸欠の金魚みたいな気分になる。
窓の前は山肌、真下に湯小屋の屋根。
遠くに福島市内の灯りが見える。
で、早くお風呂行かないと暮れちゃうわね、ってんで急いで風呂に。
内湯。
2~3人入っていたが、やがて出ていった。
ので、ガバッと窓を開ける。
「寒いから閉めて」と母に言われる。
お湯は適温、ph3いかないくらいか、
やや酸っぱいお湯である。マイルド。
母にとって久しぶりの硫黄泉で、「温泉らしいわね~」と、喜ぶ。
が、私にはあまり面白みのない内湯である。
上がって脱衣所にあるドアを開けると小さな露天があり、
「私は行かないけど露天に行くんでしょ?」と聞かれたが、
のぞいて見たらこれまた小さめに区切られた露天だったので
「行かない」
「え? そうなの? 入らないの? 珍しいわね」
そうかもね。
単純な硫黄泉… っていうのもヘンだけど…
単純な硫黄泉より、複雑な単純泉のほうに、最近は心が向かう。
暗くなってきたので、窓の外の遠くの灯りなど見る。
母、別に風景に関心持ったりしないので、この程度でよし、なの。
食事は6時半に食事処へ。
けっこう隣との距離が近く、衝立てなどもなし、なのでなんとなく気を遣う。
その分、といってはなんだが、宿の人たちはとても愛想がよくてフレンドリーである。
熱燗1合お願いして盃を口に運ぶときに、お燗にありがちな鼻にくるアルコールのにおいがなかった。
あれ?っと思って一口飲むと、そんなに辛口でないまろやかな口当たりの後に、
トロッとした柔らかな余韻があって、仲居さんに
「これ、なんてお酒?」と聞いたら知らなかったとみえてちょっと慌てていたが
料理を運んできた若い男性、若旦那?が、すかさず
「緑川です」
え? かすかな記憶の緑川の味とは違うような… それに緑川ってこんな熱燗にする??
そんな私の様子を察したらしく
「もち米も入っている、熱燗用につくられた緑川なんです」
特別の日本酒があるのか~ おいしいお燗であった。
部屋に帰ってインフォメーションを見たら、福島だけでなく新潟のお酒もたくさん置いてあり
食事とお酒にはかなり気配りしているのが分かった。
焼き物は太刀魚の西京焼き。
太刀魚は夏の魚であるが、秋にまた一段と長く大きくなって再びの旬を迎えるけど。
初冬にこの魚が出てきて少々目がパチクリ。
して、お品書きを見たら、なんと<霜月お献立>とあって…再度パチクリ。
本日12月4日。
まあ、おいしかったのでいいんですけど。
けれど先付けもしめじの土瓶蒸しも、太刀魚に添えられた焼き栗も手をかけていて、お膳の全体には晩秋の装いが醸されている。
牛肉もしゃぶしゃぶなら十分柔らかくておいしくいただけた。
魚介のちょっと洋皿風の一品。お刺身は鯛とボタン海老。
おなかもいっぱいとなり<とびっきり>はないけれど、ほどよくまとまっていた。
最後にご飯と赤出汁のお味噌汁。
なんと、この赤出汁に焼き茄子とミョウガが入っていたので…
師走でもかろうじて<霜月の献立>で乗り切れるかと思われたこの締めに、
宿の前の山肌にうっすら雪が積もる風景のただ中、一気に団扇と蚊遣りの情景が出来して、
残暑の夜の空気の中に放り込まれた。
デザートは梨のゼリー。母、食べられず残す。これは残すのが惜しい味ではなかった。
持って帰った献立表を見るにつけ、今もって焼き茄子、ミョウガ、には首を傾げる。
献立表など出さなければ、いっそデザートに西瓜が出ようがいっこうに構わぬが、
これがあるゆえにそれなりの調和をこちらもおのずと求めてしまうわけで…
うーん… である。
夜のフロント。
ラウンジ。
部屋に戻ると、布団が敷いてあった。
足の踏み場なく、2人で布団を除けて歩くのがちょっと大変。
8時過ぎに母は横になってしまい、テレビは母の頭の上でつけられず、明かりを消すと本も読めずでお手上げ~~~
風呂に行くかね~
貸切風呂。2人でいっぱいかな。
電気を全部消して空を見上げると、強風が止んで澄みわたった夜空。
風呂の屋根と向かいの山の間のわずかな空に、星が輝いているのが見えてちょっと幸せ。
入れ替わった内湯の脱衣所。
入れ替わった内湯。
さっき入ったのと左右対称。
入れ替わった露天はいったん外に出て、細い通路の奥にあるらしい。
ここにも脱衣所。
露天。前の下のほうに細い川があるが、多分見えず。めんどうなのでこの露天も入らず。
部屋に帰って早々と寝る。
朝は、2人とも早く目が覚めた。
「布団が… 重くて暑かったわね」と母。
「重かったね~羽根布団なのにね~」
布団の中でもぞもぞしていたら母が
「ねえ、貸切風呂って、今あいているかしら」
時計を見ると6時半。
「たぶんあいてるんじゃない?」
「じゃあ… 一緒に行ってくれる?」
へっ???
ここのところ母が朝風呂に入るなんてことがなかったから、私はひじょーにびっくりした。
「だって濁り湯だもの」
はあ~
はいはい、じゃあ行きましょう!ってことで貸し切り風呂に。
あいていた。
あんまり寒くなかったし、これなら風邪ひくこともないだろう。
母がやけに濁り湯を喜んでいるのがおかしい。
ここも風景が開けているわけではないので眺めはイマイチであったが、
母にとっては今年の入り納めって感じだったのであろうか。
朝は気持ちがいい風呂であった。
昨日の強風とは打って変わって、穏やかな日である。
朝食は別の食事処で。
ここも隣とのテーブルが近い。
ほとんど山のものだけの朝食。
そしてお豆腐。
献立がけっこう潔いあっさり感で、好感がもてる。
足の踏み場のないような布団は朝食後あげてあり、狭い空間をなんとか快適に、との配慮がみえる。
「あーあ… 終わっちゃったわ…」と帰り際に母がつぶやいたのを聞いて、
私は内心、笑っちゃった。
如何せんあのせせこまし感に満ちた部屋と風呂を私は再び味わおうとは思わないが、
総じて宿の対応はとてもよく、
そして手ごろな料金で硫黄の香りの濁り湯、温泉らしさを味わえるのであるから、
人気があるのもうなずける。
宿の脇の道を上って行ったところにあるバス停まで、3~4分歩く。
勾配がきついが、母はいたって元気に歩く。 ありがたきかな。
「なかなかよかったわね。
人気のある宿なのね。次の予約をして帰る人がいたわ」
と満足の様子。
来年1月で88歳であるが、祝われることは極力嫌うから、長寿の祝いはせず。
次もいつもどおりの何となくのお出かけとなるであろう。
では、次回も濁り湯にするかな~
「春先暖かくなってから、また行きましょう」
こんなに喜ぶんだからね やり繰りしてまた連れていかなくちゃね~
と、改めて思ったんです。
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