(2010年 7月28・29日 1人泊 @13,800円)
夏休み、大宮駅。長野新幹線にはポケモン列車が走る。
子供たちには嬉しいことだろう。
そういえばなぜか私はこの時季岩手に行くことが多いことに気づいた。
飛行機代が高くなって人出が多い夏の北海道は避けるから、ちょっとでも北の東北に… と、気持ちが向かうんじゃないだろうか。
そして盛岡に着くと、岩手も暑いということをやっと思い出すのである。
着いた!そして暑い!
盛岡駅から八幡平山頂行きのバスに揺られること2時間弱。
岩手、とくに盛岡周辺って、うっすらと宮沢賢治色に染まっているのね。
ドイツ語の幼稚園の名前、立て看板に<イーハトーブ>、あっちのほうに見えるは<銀河鉄道>の文字…
宮沢賢治の業績は大きい。
しかしこの21世紀において、この地に<うっすら賢治色>しかないのが不安にもなるのである。
学校を3~4カ所、幼稚園、病院、役所、介護施設、駅、郵便局前などをくまなくグルグルと1時間半ほど回って、ようやくバスセンターに辿り着く。自家用車ならおそらく半分の時間で来るだろう。
ここで乗り替えて八幡平山頂へ。
バスセンターのトイレがボットン式の蓋付きで…ちょっと引いた。
暑いよ~
夏だけ通るバスであるが、雪除けの長い長いトンネルが続く。
もうじきだ~
山のなだらかな傾斜のかなたを見下ろしながら進む、バスの乗客は私1人。
乗降は全然なくてひたすら走る。眠気を催してくる。
なんか東北の文学者ってさ、苦手なの。
いや、賢治さん、あなたの優れた文学、教科書に載っていたあの詩の、
「あ・め・ゆ・じゅ・と・て・ち・て・け・ん・じゃ」という、
いまだ私の耳に残る音の鮮烈さ、そして貧しい東北の農民に対する献身的な愛。グレイトです!
しかしな~ 石川啄木 ぅぅっ…
太宰治 ぁー…
近いところで 寺山修二 んんー…
いやみなさんグレイトです、それは分かります、はい。
強烈な眠気と闘いながら考える。
( だってもうすぐ到着じゃん… )
なんなんだろうな~ なんで苦手なのかな~
玄関前まで行くんだけどUターンしちゃう感じなんだよな~
たぶん、ガラッパチの東京生まれの私には、
屈折した複雑な劣等感を支える繊細で鋭敏な感性や、博愛や女性への限りない憧憬やらは
ちょっと敷居が高すぎるのかもしれない。
「あなたは二言目には『めんどくさい』だからね~」とある人に言われたけど。
そうね~ おまけに向上心ないしさ~
たぶんこれだね。
ということで、おあとがよろしいようで。
え? この霧でなにも見えないところが山頂?
山頂目指した人は気の毒。観光バスが止まっていたけどみんな降りて行かなかった。
俄然目が覚めた!
位置関係がよく分からなかったのだが、バスは一旦山頂を通って下り、その下った途中に宿があるのだった。
帰りのバスは山頂までしか来ないので、宿の車で送ってもらうのである。
バスを降りたち、わたしはここしばらくやっていないことをした。
思いっきり深呼吸したのである。
硫黄の香りがほんのりと、湿った涼しい空気を胸一杯、これでもか!というくらいに吸い込んだ。
肺がまともに動き出した感じがした。
ということは、いままで肺はまともに動いていなかった、ってことでしょうね。東京の暑さで。
ガラス戸を開けてすぐのフロントで記帳して、2階に案内される。
部屋のすぐそばに、流しと電気ポットがあり、お湯が沸いている。
水道の蛇口は硫黄分で真っ黒。
6畳1間のシンプルルーム。テレビはない。
「部屋で携帯は通じませんが、1階のテレビのあるお休み処にドコモのアンテナがありますから」と。
携帯通じなくて結構。それにauだし。
窓にはしっかり網戸が張られていて、開けると下の駐車場の向こうに山の風景。
新館はトイレ付きで眺めが良さそう。
トイレ・洗面なしの料金としては1万4000円弱って、ちょっとお高いわね。
それはともかく…
あまりの涼しさ… なんと体がラクなことか。
私は座布団を枕に、しばし横になると…
溜息か安堵の息か分からなかったが、大きく息をして目をつぶり、
そのまま寝込んでしまいそうになったのであった。
失神??
しばしの時が流れ、いくらなんでもこのまま眠ってしまうのはもったいなく、
やっとこさ体を持ち上げて、いざ、風呂へ~~~
部屋のすぐそばにトイレがある。
綺麗な水洗トイレだった。
ここがフォーマのアンテナがあって携帯が通じるお休み処。
テレビはBSを流していた。
けっこう日帰り入浴客が多く、小さな内湯は混雑していたので、即、露天に。
あ! こっちは誰もいない!
おお~~~ 湯船は上下に2カ所。
有難いことに曇っているのでちょうどいい!
ここでピーカンだったらつらいよー! 日傘差して入りたく思うことでしょう。
前にある意味不明の板、邪魔だが。
お湯はけっこう熱い。口に入れてみると、酸味が遠かった。
この色を見て無意識にかなり酸っぱいと思ったのだが、拍子抜けするほど淡い酸味で驚いた。
ph3~4くらいじゃないだろうか。
見た目の強烈さとは裏腹に、意外に優しい湯あたりで、時折涼しい風が吹き抜ける。
下の湯船は適温になっていてのんびりと過ごせた。前の雑草刈りとってくれたら、よりよい眺めとなるんですけどね。
日帰りで幼い女の子を連れたお母さんがやってきたので、上は熱いから下のお風呂のほうが、と薦める。
子供は水しぶきをたてて遊んでいたがすぐに飽きてしまい
「もう出る!」
母親は高い料金を払って入っているのでカラスの行水では元が取れない。
「ゆっくり数えてごらんよ、ゆっくり。 ね? ほーら!鳥が飛んでるよ。50まで数えられるかな?」
「いやー! もう出るよー 出るよー」 バシャバシャやるのも飽きてしまったよね。
(この年で温泉好きの子供がいたとしたら、逆にちょっと問題かもね~)
などど私は思う。
「ほら、ひとつ、ふたつ、みっつ ってさ」 母、粘る。
子供は
「ひとつ!ふたつ!みっつ!」
そして母を上目づかいに見て、
キッパリと言った。
「ごじゅう!」
「仕方ないわねー じゃあ、内湯に行ってみようか」
2人は去り、そして誰も来ず、静けさに満ちた。
宿の建物の向こう、山肌から煙が。
混浴露天。
クーラーを使わなくても過ごせる時間というのが嬉しい。
夕食は6時から1階売店奥の椅子・テーブル席と、脇の畳の大広間で。
バイキング。
この日は人数が多く、各自好きな席を選んで。
いい焼き加減の岩魚は、保温されていて各自1本。
ワタをとってあり、食べやすい。かつメタボじゃないので、岩魚らしい味がする。
2台のテーブルの上に並んだたくさんの山菜料理、そのほかにも山菜や野菜の天ぷら、湯通しして熱くして食べられるお蕎麦、カレーまであって、居合わせた2人の少年はカレーがお気に入りになったらしい。お替わりに終始していた。
魚をソテーしたものや、豚の冷シャブ、サラダやデザートのメロンなどの量もたっぷり。
すべて宿で作ったものではないにしろ、粗雑でない味で種類も豊富、
客が歩きまわりながら嬉しい声をあげている。楽しんでいるのが伺えてとてもいい雰囲気であった。
小麦粉のヒラヒラが入った、野菜具沢山のお汁。
山菜とキノコをたくさん食べられて、贅沢じゃないがおいしい夕食だった。
ごちそうさま~
夜、満月がやや欠けた月が煌々と姿を現した。
露天に来る人もおらず、独占して満喫。
内湯。
布団は敷布団1枚で… 背中痛し(涙) 押入れもないから在庫ゲットならず。
明日はなんとかせにゃ!
朝食は7~8時。
7時半に頑張って行ったら、私が最後でした~
食事が済み、お茶を飲んでる中年夫婦の奥さんが
「昨日も曇ってたのよ! 今日も何にも見えなくてさー!」と宿の男性従業員に。
「そうですね… 1週間前までは連日天気で山頂も晴れてたみたいなんですが…」
そしたら旦那のほうが
「山頂が曇ってるときは宿代割り引くとか、夕食にビール付けるとかさ」
これにはさすがに宿の人も黙ってしまいました。
天気は宿の責任じゃないからね~
それにこの宿は「八幡平がよく見えます」なんて全然謳ってないし。
すごい発言でびっくりでした。
昨日の夕食の延長ではあるが、野菜も新鮮でおいしい。
フキも薄味で好ましい。
手早く、おいしくささっと食べてごちそうさま!
8時前、もう出発する人もいるのだ。観光なんでしょうね。
温泉目当ては私だけみたいでした。
部屋のお掃除が始まったので、おばさんに敷布団所望してゲット。
これでひと安心。
「毛布もいる?」と聞かれ「掛け布団で十分なので毛布はいりません」
混浴用アーマー着装ののち、混浴露天に。
もちろんタオル巻きOK、売店にゴムが入った筒状タオルも売っていて、洗濯機もありタオルを脱水できるので始末がいい。
まず混浴の内湯がある。
上から下まで露天がゴロゴロ… じゃなくて、なんていうんでしょうね、
露天がより取り見取り… かな?
つまり、たくさんあるんですよ。 それも誰も入っていないのが。
日帰りの人も、こっちには来ないみたい。
で、テクテクと登っていきながら1カ所ずつ足を入れてみると。
あちーっ!! あちーっ!! すげーあちーっ!!
どこもすっごく熱いの!! これじゃ 入れないよぉ!
足をつけてみながらいちばん上を目指す。
いちばん上の風呂の加水。
これ少なすぎるでしょー! こんなチョロチョロじゃ。焼け石に水状態でちっとも加水の意味なし。
ついに1カ所も入れずに引き返す。
やっと下から2番目の風呂になんとか。
地面を掘って自噴した上に板を載せて五右衛門風呂状態。
ブクブクが出ていないところを選んでじっとしていても、突然下からちょー熱いお湯が!
ちょっと落ち着かない。
下に溜まった湯の花を見てみると!
泥パック状態です!
けっこう我慢してなんとか肩まで入った。
ときどき下からドワッと沸き上がってきて 「ひえ~~~!あちちっ!」となったけど。
だけど、こんなに露天があるのに入れたの1カ所。 いったいどうすりゃいいんでしょう。
うーん、露天に全部入れないのは悔しい…
だけどな~ こればっかりは…
あの露天が目的なのに…
内湯から出て部屋で休んでいたら、篠つく雨が降ってきた。
一瞬にして風景が変わって視界が悪くなる。
雨か… えっ 雨…
雨ね!
これはいいかも! 要は髪の毛さえ濡れなければ、土砂降りでも風呂に入ってる分には気にならないし、
そしてこんな雨量なら源泉の温度もたちまち冷えて、おまけに加水される水の量も多くなるから…
入れるかも!!
一目散に混浴露天に行ってみる。
内湯に入っていた3人のおばさまの
「あら、すごいわ、この雨の中を」
「勇気あるわね~」
「すごいわね~土砂降りよ、気をつけて」
という称賛の言葉を背中に受けて、いちばん上の露天に急ぐ。
雨粒が体に当たって痛いが、大宮で買ってきた<いも恋>が入っていたビニール袋を頭に被っているので気にならない。
おおー! して、入れたわ、やっぱり。
適温。
激しく自噴している部分を避ければ、適温。快適。
すごいね~
足元湧出、とか自噴、とかいう言葉は、かなたに飛んでいく。
ジェット噴射状態。
敷いてある板の隙間があちこちにあるから、うっかりその上を通るととんでもなく熱い気泡が体の上を滑っていく。
頭上からたたきつける雨で湯面は激しくさざなみ立ち、なにかこう…
<温泉に入る>などというヤワな行為は木端微塵となり、人知を超えた自然のただなかで、
濁流に漂う木の葉の上の小さな蟻の気持ちかも。
爽快 かつ愉快。
この手の下に、地のエネルギーが渦巻いているのだ。
十分に味わってから、下に向かって適温になったお風呂、一つずつ全部入ってみたのであった。
本日は客が少なく、部屋の番号が書かれたテーブル4つほど。こぢんまりと。
「あ、○○さんはここね」と私に示されたのは、昨日私が座ったテーブル。
「○○さん、本日は鮎です」と、連泊の私だけ鮎にしてくれていた。
きょうもおいしくいただきました。
バイキングというのは、やはり人数が多いとメニューや量のコントロールがしやすいのでしょう。
人数が少ないと、どうしても料理に一部昨夜の使い回しの感があるが、2泊しても私は飽きなかった。
本日はお蕎麦をいただいてみたが、ウロウロしてたら宿の方が素早く温めて手渡してくれた。
朝食はお粥をいただきました。
他の客は霧の中、車で早々と出発していった。
私が乗るバスは八幡平山頂を12時20分ごろに出るので、チェックアウトはそれに合わせて延長してくれて、
山頂まで送ってくれるので、ゆっくり露天を楽しむ。
落ち着いてのんびりと入るタイプの風呂ではないのでまったり感はないのだが、
この自然の中でこんな露天に入る経験は、二度とないだろう。
全部入れて幸せ! 大雨よありがとう!
盛岡駅では、秋田新幹線が豪雨のために不通となり混乱が起きていた。
私にとってはありがたい雨であったったが、困っている人が続出している盛岡駅であった。
人間の能力をはるかに超えたものがこの世界には確固として存在し、
その前では人はこうべを垂れるしかない。
この世界が存続していれば。
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